マツダ家の日常 関ミナティ インタビュー#01/投稿1本目で金脈を掘り当てた彼らが気付いた、「いい動画」「悪い動画」

フォロワー数600万人超を誇る日本のトップTik Tokerマツダ家の日常。はじまりは、Mr.都市伝説こと芸人の関暁夫さんの語り口をオマージュし、コンビニグルメを紹介する「ロスチャイルドファミリーマート」だった。秒でバズった彼らだが、納得せずにはいられないロジカルな戦略があったのだ。メンバーの関ミナティさんに話を聞いた。
(全2回の1回目/2回目に続く)
お風呂で1度練習した程度のモノマネで、大バズリ!
ーーTik Tokをはじめたきっかけは、お友達同士の“ノリ”だったと聞きました。
関ミナティさん(以下、関) はい、親友3人でキャンプに行ったとき、僕が酔った勢いでMr.都市伝説 関暁夫さんのモノマネをすると、1人が「おもしろいからTik Tokに投稿したい!」と言い出したのが始まりでした。
ーーもともと関暁夫さんのモノマネが得意だったんですか?
関 いえ、前日に関さんの都市伝説の番組を見て、ひとりでふざけて風呂場で練習した程度なんです(笑)。それでキャンプの日、暖炉のあるコテージに泊まって、ひとりが暖炉に火をつけようとしていたら、湿っていてなかなかつかなくて。最初は「がんばれー」なんて応援していたんですが、だんだん暇になってきたので、僕が関暁夫さんのマネをしながらその状況を解説し始めまして。
「いい? これは何者かの力によって火をつけさせてもらえないってこと。前の『ヤリすぎ都市伝説』でも言ったでしょ?」
みたいなことをずっと言っていたんですよ。そしたら深夜ノリもあって2人が死ぬほど笑ってくれて、僕は調子に乗って2時間くらいずっとやっていて。
ーー思った以上に軽い感じで始めたんですね。
関 そうなんですよ。そのときに思ったのが、この日がめちゃくちゃ楽しくて、「3人でもこんなに楽しいんだから、100人でこの楽しさが共有できたらどれほど楽しいだろう」ということ。Tik Tokで発信することで楽しむ仲間ができたらおもしろいな、と。
ーーそれで初投稿されたのが、2020年11月27日、ファミリーマートの「紅茶の生チーズケーキ」を、関暁夫さんふうにレポートする「ロスチャイルドファミリーマートシリーズ」の第一弾でした。当初からシリーズ化を見据えていたんですか?

関 そこまで深く考えていませんでしたが、「もしこれがバズったら、コンビニの商品は新しいものがどんどん出るし、シリーズとして続けられるな」とは思いながら投稿しましたね。
ーー当初から戦略手的な思考がうかがえますが、ユーザーとしてもTik Tokをそういった目でご覧になっていたんですか?
関 Tik Tokをやる前は、「これはおもしろいな。これはあんまりおもしろくないな。なんでだろう」程度に見ていましたが、投稿する側になってからは「これはなぜバズっているのか」「なぜバズっていないのか」ということを徐々に言語化できるようになっていきました。
いいグルメ動画=「次の日に行けるお店」
ーーマツダ家さんは1本目からバズり、ロスチャイルドファミリーマートシリーズが定着すると1ヶ月も経たぬうちにフォロワー数が10万人を突破しました。その理由もわかっていたんでしょうか。
関 そうですね、その当初から僕のなかで仮設を立てていて、ラッキーなことにそれがハマったんだなと思いました。
ーー仮説?
関 1本目を投稿する前、「ごはんを食べに行く動画がすごい流れてくるなあ。再生数もいいね数もすごいし」と思ってTik Tokを見ていました。じゃあ、都市伝説ふうにグルメを紹介する動画はどうだろうと考え、でもそれだけでは自信がなくて。
まずは自分のなかで、“いいグルメ動画”を定義する必要があると思いました。そこで至ったのが、“いいグルメ動画”=「身近にあり、次の日にすぐ食べに行けるお店をレポートする」ではないかと。全国の人たちが等しく「次の日にすぐ食べに行けるお店」はつまり、コンビニですよね。そうやって、「コンビニ商品を都市伝説ふうに紹介する」にたどり着いたんです。
ーーすでにロジックを考えていた上で制作していたんですね。“グルメ動画”といいつつ、食べないし味をレポートするわけではないという振り切り方も、ほかの動画との差別化だったんでしょうか。
関 あ、それは、僕が一切顔出しをしたくなかったから食べなかったんです。食べると顔が映っちゃうじゃないですか。そういえばそうだった、食べなかった理由、いま思い出しました(笑)。
ーー顔出しNGだったんですね! 初の顔出しは、関暁夫さんを彷彿させる黒スーツとセンターパートにサングラス姿で登場した、12月18日でした。この頃はもう、Tik Tokに本腰を入れていらっしゃったということなんですか。

関 そうですね。初期メンバーの3人とも自営業で、すでにTik Tokに全振りしていました。
ーー全員が同じタイミングでTik Tok1本に絞ることは、勇気がいることではなかったですか?
関 いえ、逆に、ほかの業務もしながらTik Tokに微力しか注げないことのほうが、僕らにとっては恐怖でした。1本目で”バズる”という体験をしたとき、「3人で地面を掘っていたら急に金がバーーッと出てきて『やべえ! すげえ!』となったけど、ふと周りをみると、みんなは気づかずスルーしている」という感覚を覚えたんです。みんなは気づかないけど、ここをもっとちゃんと掘ったら、もっとすごいことになるんじゃないか、と。
勝因は、1日20時間Tik Tok漬け
ーー嗅覚がすごいですね。
関 単純に興奮していたし楽しいから「ここに全振りしよう!」となったんです。「儲かりそうだからやろう」ではなかったですね。マネタイズを意識したら絶対に縮小してしまうだろうなということは、感覚としてわかっていたので。なので、儲けを優先せず、「自分たちのチームをいかに最大化できるか」ということを目標にやっていくようになりました。
ーー全振りを考えたのはいつ頃ですか?
関 2、3本目を投稿した頃ですね。
ーー早い!
関 3人で言葉にしたわけではなく、自然と「こっちやな」と暗黙の了解でしたね。
ーー2021年になると、完全に顔出ししてラップ動画を投稿するようになりましたが、これも流行りを察知してですか?

関 そうですね。当時は「ロスチャイルドファミリーマートを、やればバズる」というのはわかってきて、正直飽きてもいました。「これをずっとやっていてもなあ」と。それで、なにか違うシリーズをやってみようと探ると、そのときはかっこいいラップを巧みに披露するブームだったんです。で、都市伝説をかけ合わせてちょっとふざけたラップをやってみたらどうだろうと思い投稿すると、バズってくれました。
ーーすごく気軽に「バズった」とおっしゃいますが、普通ではありえないことだと思うんですよね。出す動画がすべてバズるなんて。なにがほかのTik Tokerとの違いなんでしょうか。
関 Tik Tokについて考える量と時間が違うと思います。当時は、僕らのほかにTik Tokのことを1日20時間考えている人なんていなかったんですよ。特別才能があるというわけではなく、それだけ時間と労力をかければ誰でもそうなると思います。
もし才能があるとすれば、そこにいかにハマれるか、ということでしょうか。僕らは文字通り、寝る時間以外はずっとTik Tokを触っている状態で、そんな生活に慣れることができたのが勝因だったのかもしれません。そのときほかにも同じような人がいれば、同じような結果が出ていたと思いますよ。
ーー力の注ぎ方が、ほかのTik Tokerとは違ったと。「ずっとTik Tokを触っている」とはいえ、普通はみなさん流し見していると思いますが、マツダ家さんはどんなポイントを見ていらっしゃるんですか?
関 初期の頃は、「おもしろいのに、なんでこの動画はバズっていないんだろう」とか、逆に「僕はおもしろいとは思えないけど、なんでバズっているんだろう」という疑問がどんどん沸いてきました。それに対して、ひとつひとつ仮説を立てて検証していくような見方をしていましたね。「これがバズらないのは、おもしろくなるのが10秒以降だから、最初に興味を引けずに飛ばされてしまうんだろうな」とか。
最初の2秒で、バズが決まる
ーーすごく細かく見ていらっしゃるんですね。
関 あとはコメント欄もチェックします。自分の感覚とTik Tokの中の空気の感覚とが、ズレていないかがわかるんですよね。たとえば、「こういうコメントが多いだろう」と思って開くと、全然違うコメントが多かった場合、「自分の感覚がズレているな、チューニングを合わせないとな」と意識できます。
僕らの動画の根底には「見た人をがっかりさせたくなせたくない」というポリシーがあるんです。無料とはいえ、視聴者からは時間をもらっている。だから「今回はあんまりおもしろくなかったな」とは思わせたくないんです。
ーーコンテンツを提供する側が常に直面する葛藤といいますか、「自分がおもしろいと思う」ものと「見る人がおもしろいと思う」かをすり合わせるのは、とても難しいことだと思います。
関 僕らの場合は「自分たちが楽しいこと、うれしいこと」=「多くの人に喜んでもらえること」なんです。たとえ「僕らはこれがおもしろいと思う!」というものがあったとしても、それが多くの人におもしろと思えなかったら、結果、僕はそれが楽しいとは思えないんです。そうやって需要と供給が重なったことは、ラッキーだと思いますね。
ーーさきほど「最初の10秒」とおっしゃったように、すごくシビアな時間感覚が必要とされるんですね。

関 たえとば、僕らの最近の動画を例にあげると、“最初の2秒”が、食べ物を食べるシーンです。複雑な説明一切なしに、
・美味しそうな食べ物がある
・それを口に運ぶ
これが“最初の2秒”のツカミなんですが、この“最初の2秒”で、多くの人に受け入れられるか否かが決まってしまうんです。
ーーたしかにわかりやすいですね。
関 逆に、たとえばツカミで「いま、東京で大変なことが起こっているんです」というセリフを言うとします。そうすると、この言葉を理解できる人以外は離脱します。興味があって、しっかり聞いてくれる人にしか見てもらえない。どんどん狭くなっていくんです。
“最初の2秒”が、
「いま、東京で大変なことが起こっているんです」
VS
「美味しそうな食べ物を食べる」
だとしたら、後者が圧勝するんですよね。
……という感じで、動画を作る前に案を対戦させているんです。
ーーさまざまな案を上げて、精査して、勝ち残った「より多くの人の興味を引く」動画を制作していると。
関 さらにその食べ物も戦わせます。
「そば」
VS
「チーズの乗った食べ物」
ならば、チーズが強いよな、とか。
ーー企画会議すらおもしろそうですね。
関 僕らはいま、様々な企業のTik Tokアカウント運用をサポートする「マツダ家コンサル」というコンサル業をしていますが、もう何十社というクライアントさんとの企画会議をしていて、すごく楽しんでやっています。
ーーコンサルは、戦略から企画、リサーチ、そして撮影から編集まで、一手に引き受けていらっしゃるんですよね。
関 たとえば、マツダ家の動画制作中、「これ、A社さんの動画のほうが合うんじゃないか?」となったり、A社の動画を作っているときに「これはA社では無理だけど、B社さんだったらできるな」とか。企画を考えれば考えるほど、どこかで使えるという状況です。
ーーもう余すところがないですね。
関 そうですね。クライアントさんが増えれば増えるほど、企画の精度が上がっている状態です。やっぱり、本気でアカウントを運用しないと、見えてこないものはあるんだなと思います。
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次の記事に続く
「日本だけでは興奮できない体になってしまった」世界を惹きつけた動画作りの背景にあった、少年時代のひとり遊び/マツダ家の日常 関ミナティさんインタビュー#02
@matsudake 😎🍫💦 #respect #challenge #再現 #平和な日常 ♬ オリジナル楽曲 – M2DK/マツダ家の日常
※動画はマツダ家の日常 公式TikTok『@matsudake』より