マツダ家の日常 関ミナティ インタビュー#02/「日本だけでは興奮できない体になってしまった」世界を惹きつけた動画作りの背景にあった、少年時代のひとり遊び
日本のTik Tokerのなかでもいち早く世界に轟いたクリエイターといえば、マツダ家の日常にほかならない。メンバーの関ミナティさんが試行錯誤の末にたどり着いた、ブルーオーシャンで見た、絶景とは。さらに、動画制作の根源でもあるといえる、知られざる少年時代の“ひとりだけの遊び”を明かしてくれた。
(全2回の2回目/1回目から続く)
すぐ海外に届くと思いきや「あれ? これもダメ?」
ーー至るところがブルーオーシャンといいますか、釣り糸を垂らせば必ず何かが釣れる状態のように見えますが、試行錯誤していた時期はなかったんでしょうか。
関ミナティさん(以下、関) ありましたよ。ラップ期の2021年頭ですね。ラップがバズって日本の多くの方に見てもらえたものの、興奮しきれない自分もいました。それは、世界に響かせることができなかったからです。
ーーその頃から海外を視野に入れていたんですね。
関 はい、海外に届けたいと思いいろんな動画を撮りましたが、日本では再生されるものの海外ではまったくで……。で、自分たちでもおもしろいと思えてたどり着いたのが、非言語の「No edit動画」でした。スゴ技をマネする動画があるじゃないですか。僕らはそれを「編集なし」と謳って、めちゃくちゃ編集してスゴ技に見せるという動画シリーズで、それが初めて海外まで届き、ハマったんです。そこに至るまで、かなり試行錯誤しています。
ーーたしかに、ラップから「No edit」の合間にいろいろやっていらっしゃいますね。といっても、期間的には短いと思うんですが。
関 いやいや、僕らの中ではめちゃくちゃ長かったんですよ。すぐに海外に届けられると思っていたのに、「あれ? コレもダメ?」みたいな感じで。
ーー「No edit」はどこからヒントを得たんですか?
関 当時は、スゴ技をやるのが世界的なトレンドで、「スゴ技動画を流したあとに、自分も挑戦して成功させる」という動画がすごく流行っていて。で、その次に「スゴ技動画を流したあとに、自分も挑戦したけど、失敗する」という動画が流行りました。僕らは、この大きなふたつの流れを掛け合わせて「スゴ技に失敗するけど、編集して成功したように見せる」。しかも、「編集していません」というタイトルで。
このシリーズの1本目を投稿したとき、日本の人は突っ込んでくれると予想していました。「いや、編集してるじゃん!」と。それはその通りになった上、予想外なことに、海外の人も同じように突っ込んでくれたんです。英語やタイ語など、いろんな言語で突っ込んでくれたり、「彼は一切編集してないな」とノッてくれる人もいたり、国を越えてコメント欄で遊んでくれていたんです。
このコメント欄を見て、「あ、これはイケるな」と確信してシリーズ化しました。
ーー見事に海外まで届き、ちょっと有言実行すぎませんか?
関 いやいや(笑)。楽しくやらせてもらっていただけです。
中毒性の高い“バズり汁”を有効活用
ーー日本だけじゃ満足できない体になってしまったのは、なぜなんでしょう。やはり、一度でも“バズり”を体験したらそうなってしまうのでしょうか。
関 まさにそうです。僕らがTik Tokを始めた頃は、『ポケットからきゅんです!』という曲が日本でとんでもないバズり方をしていました。「みんなこれをやっていて、すごいなあ」と眺めていた場所に、自分たちが来てしまった。でも、そんなすごい場所から日本を眺めると、狭かったんです。世界の60億、70億という規模の場所でバズったらどうなるんだろう、と。目指したいと思いました。
ーー世界を見据えるスピード感が、Tik Tokならではですね。
関 10年前に「海外で有名になる」のは、夢物語だったと思います。でもいまは、誰でもすぐに有名になる可能性を秘めてる。見据えないのはもったいないと思います。僕たちのYouTube『M2DK.マツダ家の日常』は、1ヶ月の再生回数が5億回とかなんですが、少し前だと「毎月5億再生」ってありえなかったと思います。でもいまは違う、現実的な数字になったんです。
ーー5億……。“バズり”を知る前と知ったあとでは、物の見え方や意識に変化はありますか?
関 明確に変化はあります。バズると、“バズり汁”が頭から出るんですよ。
ーーバズり汁! 初めて聞くワードです(笑)。
関 これはバズり経験がある“クリエイターあるある”だと思いますよ。バズると、ほんとうにこれまで味わったことのない感覚というか……これまで刺激が入らなかった脳のある部分に、ドバッと刺激が入る感覚があるんですよ。それを“バズり汁”と呼んでいるんですけど。バズり汁が出ると、いろんなことが思いつくようになるんですよ。「こんな動画を撮ったら上手くいくんじゃないか」「こんな企画もできそうだ」と、次々と沸いてくる。そしてそれが、ことごとく上手くいく。
ーーバズり汁……すごい……。
関 ただマイナス面もあります。とにかく中毒性が強く、「とにかくまたあのバズり汁を出したいッッ!」と思ってしまうんです。その点、僕らは自分たちのアカウントだけではなく、各クライアントさんのアカウントもやらせてもらっているので、淀みなくすべてにフルパワーで頭を使うことができているし、どのアカウントがバズってもめっちゃ嬉しいんです。
ーー常にバズり汁が出っぱなしなんですね。
関 いまも出ています。
ーー出っぱなしで体に弊害はないんでしょうか。
関 いまのところないですねえ。いいことに使おうとすると疲れないですし。しんどくなることもあるんですよ。「マツダ家を最大化するためにどうすればいいか」という方向に頭を使おうとすると、ダメですね。途端に、「数字が落ちたらヤバい」という焦燥感に苛まされてしまうんです。
いまのように「誰かを支援できないか」「誰かをバズらせることはできないか」という考え方をすると、良質なパワーになるんです。これは3年前に気づきました。
映画『激突!』に感銘を受け、人形遊びを追求した少年期
ーー気付く前は、しんどくなった瞬間もあったんでしょうか。
関 「このままいくと、しんどくなりそうだな」と思ったときがあったんです。物理的に自分たちができることは限られているけど、「あれもしたい、これもしたい」という常に求め続ける欲求が肥大化して、さばききれなくなりフラストレーションが溜まりそうだな、と。
ーーそれをいまは、各クライアントに分散して注ぐことができるようになった。
関 はい、そういうことができるなと、気付いたんです。
ーー考え方がフレキシブルですし、根っからクリエイター気質なのかなと感じました。学生時代から、「他の子どもと違うな」など感じたことはありましたか?
関 それは自覚があったかもしれません。僕は幼少期から自分ひとりの部屋があり、子ども向けではない映画をひとりで観たりしていました。
ーーたとえばどんな映画ですか?
関 覚えているのは、幼稚園の頃にスティーヴン・スピルバーグの『激突!』を観たこととか。
ーー主人公が乗る車が、謎のタンクローリーに追いかけ回される映画ですね。
関 そうですそうです! 父親から「おもしろいから一緒に観よう」と誘われて観たのが、衝撃的におもしろくて。それまで僕が観ていたアニメは、わかりやすい悪者と味方がいて、最後に悪者が「やられた~」と言うんですが、『激突!』は敵の顔が見えないんですよ。だから敵の顔を頭の中で想像するんです。自分が思い描く、もっとも怖いキャラクターとして想像して。
そんなふうに自由度があることが革命的でした。「こんなにおもしろいものを作れる人がいるんだ!」と衝撃を受けたことをいまでも覚えています。それから、映画や物語にハマるようになりました。
ーー当時からクリエイティブの素養があったんですね。
関 いや、そんなにかっこいいものじゃないですよ。僕は部屋で、ずっと一人遊びをしていたんです。高校生くらいまで、マジで人形で遊んでいたんですよ。その人形遊びの題材探しのために映画を観ていたほどです。
ーー人形遊びというのは、ストップモーションを撮ったり、ということですか?
関 いや、普通に、こうやって持って遊ぶだけです。
ーー普通に!
関 頭のなかにはストーリーが山ほどあり、部屋には数えきれいない種類のフィギュアがブワーーッと置いてあって。「このキャラとこのキャラを使うときは、こういうストーリーで」とか、それぞれに物語があるんですよ。それをその時々の気分でやったり、話を作ったりしていました。
Tik Tokがなかったら、3人でコテージを作っていた
ーー楽しすぎる放課後じゃないですか!
関 ちゃんと声を出しながらやるし、自分で作った話で号泣したりとかもありました(笑)。
ーー最高ですね(笑)。お友達やご兄弟を巻き込んだりはなかったんですか?
関 そこはやっぱり恥ずかしいので、ずっと隠していました。
ーー親御さんは、部屋にフィギュアがたくさんあるのは、コレクション趣味だと思っていたんですかね。
関 いや、あることすら知らなかったと思います。ひとつの隠しボックスに詰め込んで、クローゼットのめっちゃ奥に入れていたので。
ーー般的な年頃の男子は、セクシーグッズを隠すものですよね(笑)。
関 僕は大量のフィギュアを隠していました(笑)。
ーー想像してストーリーを作ることが習慣化していたんですね。部活で、演劇部で脚本を書いたりなどはしなかったんですか。
関 全然ないです。ほんとうにひとりの遊びでした。
ーー初期メンバーの2人は、そういった趣味嗜好を共有できる友人なんでしょうか。
関 はっきり言ったことはないですが、「関はそういうのが得意なんやろうな」というのは知っています。
ーーいま、そのバックボーンが動画制作で昇華していると考えると、Tik Tokがなかったらもったいないことになっていましたよね。
関 Tik Tokがなかったら……それを想像すると、僕たち3人はキャンプやコテージ宿泊にハマっていたので、コテージ作りに振り切っていたんだろうなと思います。
ーーコテージ作りというのは、DIYということですか?
関 いえ、仕組みづくり、ですかね。「こういうコテージがあったら泊まりたい」というコテージを作り、それを全国、世界に展開させるにはどうすればいいのか、という事業をやっていたと思います。
ーー「多くの人に楽しんでもらいたい」という根底は、いまと同じですね。
関 そうなんです。楽しんでもらいたいし、自分たちも楽しみたい。常にそれがいちばんです。
ーーそんな初期メンバー3人から、いまは「マツダ家」のメンバーは何人いらっしゃいますか?
関 40人ほどですね。
ーー志同じ仲間が集まったんですね。
関 振り切ったことをやっているからこそ、振り切っている人たちが集まってくれました。
ーーみなさんの動画作りには、プロ意識が働いているように思います。プロとしてのこだわりはどういったところにありますか?
関 動画を作る瞬間だけがんばっても意味がないと思っていまして、動画のこと、広告のこと、クリエイターたちが発展していくにはどうしたらいいのか……ということを常に生活の中心に置いていられるかどうかが、プロ意識なのかなと思います。
Tik Tok広告代理店のパイオニアに
ーー最後にお聞きしたいのですが、今後、Tik Tokはどうなっていくと思いますか?
関 これからも広がり続けていくだろうし「Tik Tokで稼いでいます」という人がめっちゃ増えるだろうなと思います。いまはまだそこまでできている人は少ないですが、Tik Tokはビジネスの可能性が無限にあります。僕たちの会社も、そんなクリエイターさんのお手伝いをさせてもらえたらと思っています。
ーーマツダ家さんのコンサル業もさらに需要が高まりそうです。
関 最近大きな変化を実感したんですが、いまはナショナルクライアントと直接仕事をしているんです。これは少し前のTik Tokではなかったことらしくて。僕らがお手伝いすることで目に見えた成果があり、大きな企業と直接やらせてもらえる機会が増えました。
ーーコンサル業も、始めてすぐに軌道に乗ったんですか?
関 そうですね。最初は仕事にするつもりもまったくなく、タダでやっていたんですよ。「なんか詳しいって聞いたんですけど、僕のアカウントってどうすればいいですか?」という相談にアドバイスをしたりとか。そうしたら「めっちゃ伸びました!」という報告をいただき。そういったことが続き、「これ、仕事にしたほうがいいんじゃないか?」と。
でもその時点では、企業と一緒にやることは想像していなかったです。Tik Tokでコンサルができる人たちは、世界中探してもあまりいないと思います。
ーーパイオニア的存在ですよね。
関 で、いまは「Tik Tokで広告」の流れがきていて、これもすごいことになるだろうと思っています。いま僕らが主にやっているのが、「このクリエイターさんで、こういったPR動画を作る」という業務で。
ーーまさに広告代理店の仕事ですね。
関 そうです。そのクリエイターさんが普段投稿している動画よりも、僕らが一緒にやったPR動画のほうが伸びがいいというケースがめちゃくちゃ出てきている状態なので、今後もっと広がっていくと思います。
ーーもちろんその次の展開も考えていらっしゃって。
関 もちろんです。次はクリエイターさんの支援ですね。Tik Tokのクリエイターさんはマネタイズが難しいので、「マツダ家と組むことによって新しいビジネスができる」という展望をお見せできればと思います。
ーーまた有言実行しそうで、とても楽しみです!
@matsudake No edit!!🕶編集無し!!🕶Best #respect #challenge #再現 #平和な日常 ♬ オリジナル楽曲 – M2DK/マツダ家の日常
※動画はマツダ家の日常公式TikTok『@matsudake』より